清澄の工房に朝がくると、まず届くのは鉋(かんな)を研ぐ音だ。グローブ・コア・ラボの木工職人、宮田は、毎朝同じ手順で一日を始める。刃を研ぎ、木肌に触れ、その日扱う材の呼吸を確かめる。三十年近く木と向き合ってきた彼にとって、木は単なる素材ではなく、対話の相手なのだという。
「木にはそれぞれ癖がある」と宮田は言う。同じ樹種でも、育った場所の日当たりや風の強さによって、木目の詰まり方も、反りやすさも変わってくる。図面通りに削ることよりも、その木がどう在りたいかを見極めることのほうが、ずっと難しい。彼の仕事は、木を思い通りに変形させることではなく、木がもともと持っている形を、ゆっくりと引き出していくことに近い。
The Workshop — 工房の朝
工房には、代々受け継がれてきた道具と、宮田自身が手を加えた道具が混在している。柄の角度をわずかに削り直した鑿(のみ)、握りやすいように漆を塗り重ねた小刀。どれも既製品ではなく、自分の手のために少しずつ育ててきたものだ。「道具も木と同じで、使い込むほどに応えてくれる」と、彼は笑いながら語った。
木を急かしてはいけない。
木が乾く時間も、私が学ぶ時間も、
同じだけ必要なのだから。
グローブ・コア・ラボの製品の多くは、こうした一人ひとりの職人の手を経て完成する。効率だけを追うなら、もっと早く、もっと均一に仕上げる方法はいくらでもある。それでもスタジオが手仕事の工程を手放さないのは、木という素材が本来持っている個体差を、欠点ではなく個性として扱いたいという考えからだ。
取材の最後、宮田に「一番好きな瞬間は」と尋ねると、彼はしばらく手を止めてから答えた。「削り終えた木を、光にかざす瞬間だね。木目がどう見えるか、そこで初めてわかる」。その言葉には、長年木と向き合ってきた者だけが持つ、静かな確信があった。森で育った木が、人の手を経て、また誰かの暮らしの中に根を下ろしていく。宮田の仕事は、その橋渡しなのかもしれない。